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- 公立大学法人福島県立医科大学 消化管外科学講座
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こんにちは、2012年卒の山田玲央です。
2020年3月に河野教授をはじめ教室の先生方の全面的なご支援のもと無事、博士課程を修了することができ、その後1年間の臨床復帰の過程で将来の展望を朧げながら描いていたところ、多田武志先生が出向されていたNational Institute of Health (NIH)へ出向する話を頂きました。
NIHの受け入れ先であるCurtis. C. Harris先生主催の研究室”Carcinogenesis”では、留学前に東京は築地の国立がんセンター(National Cancer Center; NCC)での研鑽が慣例となっており、諸先生方が出向されていた“ゲノム生物学研究分野”へ当初出向させて頂く予定でしたが、コロナ禍の折、海外留学に代わる留学先として各機関から大学院生として多くのMedical Doctorsを同研究室が受け入れており、僕が身を置ける程の余裕がないとの返事を頂いた為、留学前の期間をいかに過ごすか逡巡して2021年の3月を迎えていました。
そんな折に、NCCにも籍を置かれている齋藤元伸先生にご紹介頂いた研究室が現在2021年4月から研修先として所属している”分子発がん研究ユニット”でした。
分子発がん、というネーミングだけでは概念的でややわかりにくいかと思いますが、「細胞内non-coding RNAの一つであるマイクロRNA(miRNA)に着目し、その機能を知ることで、発がんの分子メカニズムを理解し、新たながん治療法や診断法に資する基盤的研究」を柱としており、代表的なマイクロRNAであるmiR-34a(p53と関連を持ち, がん抑制機能を有する)の発見者である土屋直人先生のもと少数精鋭部隊で活動している研究室です。
マイクロRNAはこの20年余り盛んに研究が行われてきた分野ですが、当研究室ではこの塩基数がわずか22-24程度のマイクロRNAのうち、同一の配列を有するマイクロRNAの変異体(5, 3末端などで1-2個の塩基数+/-)で予後・再発率が分かれる可能性が高い、という点に着目して現在解析を進めており、そこに当消化器外科学講座の胃がんの臨床検体を持ち込ませて頂き(術後の検体採取など、ありがとうございます!) 、変異体の発現量・割合の差異をPCR解析にて評価し、異なる臓器においてもバイオマーカーとしての有効性が見込めるか、という研究に携わらせて頂いております。
これまで働かせて頂いた環境では、Medical Doctorsの占める割合が圧倒的に多かった一方、現在所属している研究室には僕以外医師が在籍しておらず、価値観の違い、研究への姿勢など面食らい・学ぶべき点も多いですが、異なる環境に身を置くという意味合いでもまさに「留学」の醍醐味を味わせて頂くことが出来ました。
コロナ禍の折、めくるめく魅惑の東京ライフを過ごすという形からはかけ離れた生活でしたが、非常に充実した1年間を過ごさせて頂くことが出来ましたので、このNCCでの経験を糧にして来年度への発展に活かしたいと思います。
送り出して頂いた、河野教授をはじめ教室の先生方、国内留学中、細部に渡りフォロー頂いた秘書様・研究材料の調整など含めご尽力頂いた中嶋先生、斎藤勝治さん、大学院生(作山先生)の方々へこの場をお借りして厚く御礼申し上げたいと思います。
P.S. 博士課程を修了したミャンマー人留学生のAung Kyi は東京で元気にしていました。
私は2021年12月半ばよりスウェーデンに来ています。
現在,
Karolinska Institutet(KI)の Department of Oncology-PathologyでPostdoctoral fellowとして働いております。
まだ始まって間もないですが、私の現状について少しご報告致します。
COVIDによる制限のため、留学前にスウェーデンに足を踏み入れることは叶いませんでしたが、前任の氏家先生のサポートで何とかアパート契約できました。ストックホルムでは住居状況が厳しく、正規ルートでアパートを借りる場合は10年以上掛かります。さらに、不動産詐欺も横行しているため、安心・安全を考え、中島先生、氏家先生が住んでいた同じアパートの一室を又貸しで借りることにしました。アパートはリフォームされているとはいえ、入居数日後に台所からの水漏れが発生し、大家と頻繁に英語で電話したり、水道屋が突然やってきて修理したり、住宅保険の手続きをしたりとなかなか大変な思いをしました。
予想通りでしたが、ストックホルムの冬は日照時間が短く、ランチを食べてコーヒーを飲むと外は暗くなってしまっています。しかし、街は綺麗にライトアップされており、北欧ならではの景色が楽しめます。気温に関しては、セントラルヒーティングの影響で暖かく、思っていたほど寒さは感じません。交通網が発達していること、乾燥により雪も少ないことも考えると、むしろ東北の冬の方が厳しいかもしれません。。
とはいえ、やはり外国ですので、常識が色々と異なります。
良い点としましては、治安が良い、差別がない、キャッシュレス(公共トイレ含め)、バリアフリー、環境に対する意識、子供や動物にフレンドリー、休暇を大切にする、などが挙げられ、考え方などは非常に勉強になります。苦労している点としては、食文化の違い、物価・家賃の高さ、各種手続きに時間がかかることなどです。体感的には、スーパーの食材や外食は約2倍以上でしょうか。日本のように魚介類の種類も豊富ではありません。その中でも、チーズが豊富であったり、ワインが安くても美味しかったりと楽しみを見出しています。役所仕事はのんびりなので、パーソナルナンバーもまだ入手できていません。国の健康保険対象とならないため、COVIDや怪我には注意をしながら生活しています。
カロリンスカ研究所は医学系単科研究機関としては世界最大規模の施設になります。敷地は広大で全体像は掴めておりません。Department of Oncology-Pathology はBioclinicumという建物内にありますが、その建物内だけでも約30の研究グループがあります。私の所属するRolf Kiessling’s GroupではPIが2名おり、その下でポスドクやPhD studentやMaster studentが日々研究に励んでいます。同じフロアーに複数のラボが混在していますが、スウェーデン人、ドイツ人、フランス人、アイルランド人、オランダ人、中国人‥と、数多くの国から研究者、大学院生が集まっています。毎週、隣のLundqvist’s Groupとのmeeting, 3週に1回のGroup meetingがありますが、その他適宜small meetingも行っています。現在はCOVIDの影響により全てオンラインでの開催となっています。私の研究では、メラノーマにおいてexome sequence等で候補として同定された複数のneoantigenに対するT cell recognitionを調べるところからスタートしています。ラボメンバーは皆親切で、分かりやすい英語で説明してくれます。上下関係は強くなく割りとフラットな関係なので、ディスカッションしやすい環境であることはとても魅力的です。もちろん全て英語ですので、細かい内容の理解は困難を極め、カンファや抄読会は非常にストレスフルです。早く付いていけるように英語勉強を強化しているところです。
思うようにいかないことも多いですが、現在のところ周りに支えられながら元気に生活しています。このような貴重な機会を頂き、大変有り難く思っております。一つでも多くのことを学んで来られるよう、日々精進して参ります。
2017年12月より海外留学の機会をいただき、カロリンスカ研究所(KI; Karolinska Institutet, Stockholm Sweden)に博士研究員(Postdoctoral Researcher)として在籍しています。留学して間もないのですが、スウェーデン、カロリンスカ研究所、現在の状況そして留学までの経緯についてご報告させて頂きます。
お世話になっております。
渡欧して4ヶ月でコロナ禍を現地で経験し日本に逃げ帰り、8月から再びスウェーデンに戻り留学を再開いたしました。今回はその辺も含めて私の状況をお伝えしたいと思います。
2020年初頭は慣れない海外での生活、スウェーデンの市民となるための手続きの煩雑さに戸惑い、また少しずつ始まった研究に対しての勉強など、かなり頭の中が余裕のない状態でありました。もちろん陽の光を浴びないことによるものもあったのでしょうが、気持ちも落ち込み、よく下痢していました(昔からお腹の弱い子でした)。この頃から徐々に世界的にはコロナが広まってきており、3月ごろになるとスウェーデン国内でも感染者・死者が出始め、スウェーデン政府の非ロックダウン政策などのせいもあったのか、その勢いは凄まじいものがありました。日本でも報道されていたと聞きましたが、スウェーデンの政策は独特であり、絶対に抑え込もう!というよりは「普段の生活の中でできる限りかからない様にしようね」というものでした。正直いつ感染してもおかしくないと思うと同時に、当時はこの疾患に対する理解も進んでおらず、感染すればかなり重篤になる可能性がそれなりにある、と思っておりました。1日の死者が60人を越えたあたりで、スウェーデンの保険制度への手続きが万端で無かったことと、家族の健康を考えて一旦帰国を申し出させていただきました。すぐさま夜逃げの様に日本へと逃げ帰り、数ヶ月の間日本で働かせていただくこととなったのでした。
今から見れば、若者(36歳ですが私も若者に含ませてください)の重症化は稀であり、帰国する必要はなかったのかもしれません。スウェーデンに戻ってきてから何度か風邪をひいていて、子供の幼稚園の先生方がバタバタとコロナで休む中でもらってきた風邪にもかかっているので、このどれかはコロナか?と思っていましたが問題ありませんでした。ちょうどPCR検査が追いついていない時期でしたので、その時はPCR検査は受けられませんでしたので(現在は風邪引くたびに検査しています)、真偽は不明です。落ち着いたら抗体検査してみたいものです。しかしながら当時は、家族は私の都合で海外についてきてくれているので、万が一家族の誰かが罹患し重症化した場合にきっと後悔してしまうな、と思い一時帰国を希望させていただきました。一時帰国を認めてくださったスウェーデンのボス、上司、そして河野教授はじめ日本で受け入れてくださった講座のみなさまに感謝申し上げます。
スウェーデンでの研究再開後、子供の幼稚園も始まり、そしてまた一から研究を始めました。テーマは変わらずでしたので、勉強したことが無駄にならず、一番始めよりはスムーズに入っていけました。
コロナ禍の研究で変わったことは、患者の血液を使用する際はウィルス暴露の可能性を考慮して取り扱いがより厳重になったこと、物資(手袋など)の欠品がしばしば起こる様になったこと、風邪を少しでも引けば研究室に出入り禁止、可能であればPCR検査を受ける様になったこと、そして上司がなかなかラボに来なくなったこと(推奨されているため)などなど、とにかくどちらかと言えばマイナスに働くことばかりで大変に困っています。特に風邪を断続的に引いていた時は出勤すらままならないこともあり、実験の継続に四苦八苦しております。
研究の内容についてですが、二つテーマがあり、一つはAdoptive T cell therapyにおけるT細胞分化についてです。患者から取り出したT細胞を、企業より提供を受けた薬剤を用いて、より元気なT細胞にして患者の中に戻せる様にするための研究、といったところです。この実験全体が一回に2週間かかり、その後の解析なども時間がかかるため回数ができず、また薬剤自体もやや不安定なこともあり結果のばらつきを抑えられず、うまく予想通りの結果を得ることができていません。ただごく最近に報告された論文でも方向性が間違っていないことが示されてきていますので、なんとか良い結果につなげたいところです。
もう一つは、薬剤を用いて、がん細胞の抗原提示能を上げられるかどうかについて研究しています。今は神経芽腫の細胞株を用いて実験を行なっているのですが、複数のある薬剤が、がん細胞に作用するとがん抗原提示能が活性化される様だというとことで始まった研究であり、オランダのラボとの共同で研究をしているところです。オランダのラボは小児がんの専門なので神経芽腫を使っていますが、ゆくゆくはメラノーマや、他のがん腫に対しても調べていく予定です。ただ本当に最初の、まず本当にその効果があるのかどうかはっきりしていないところから始まっているので、大変苦労しております。若干上司の方針もブレ気味なところがあるのですが、なんとか食らいついてやっています。
2020年を総括いたしますと、本当に大変な時期に海外に出ているなというところが本音です。本来であればガツガツ研究をして、空いた時間、夏休みや週末で欧州サッカーを見たり、フランスのディズニーに行ったり、イタリア、スペインなど観光に行けるんじゃないか?という淡い期待をしておりましたが、そんな期待は粉々に砕けました。日々ひっそりと家と職場を往復し、この状況下でもマスクしないという世界でも注目を浴びる国で生活し、おまけに2020年12月のストックホルムは上旬の日照時間がゼロという何年(何十年?)ぶりかの記録も経験しました。しかしながら一生分の話題に困らない様になったことだけはプラスに捉えたいと思います。あと残る期間はおおよそ一年ほどかと思いますが、少しでも成長して日本に帰れる様に精進していきたいと思います。
消化管外科学講座は、食道から肛門までの消化管疾患の外科治療を専門とする講座で、患者さんの98%は癌患者さんです。したがって、最適な外科手術を提供することが第一ですが、同時に、抗癌剤、放射線照射、免疫療法を駆使した集学的治療を展開し、癌治療の向上を命題としております。そのため、癌の病態を詳しく理解し、最適な集学的治療に直結できるようなTranslational Research(TR)を展開しています。具体的には、手術摘出検体などの臨床検体を対象とし、腫瘍免疫学+分子生物学+Bioinformaticsの手法を駆使し、下記の重点テーマでTRを実践しております。
近年の免疫チェックポイント阻害剤(ICI)を用いた癌免疫療法の進歩は著しく、癌治療体系を変えるインパクトを与えています。そこで、我々の研究室では、ICIの標的分子であるPD-L1の、消化器癌における発現調節機構を解明すべく、IFN-gammaなどの免疫応答の観点、Epithelial Mesenchymal Transition(EMT)の観点、microRNAの調節機構の観点(2017年癌免疫外科研究会奨励賞受賞、図1)から、腫瘍免疫学と分子生物学の手法を用いて、多方面の観点で深く掘り下げています。その結果は、ICIの作用機序の解明、効きやすいsub-groupの同定に還元され、臨床成績の向上に役立ちます。
また、さらなる免疫療法の向上のため、複合的免疫療法の構築を行っており、放射線照射と癌免疫療法の併用療法の作用機序(Immunogenic tumor cell death、図2)の解明を行い(放射線腫瘍学 鈴木義行教授との共同研究)、新規治療体系の構築を実施しております。すなわち、放射線照射とICIの併用(サーキット試験、図3)など、福島医大オリジナルの癌免疫療法の臨床試験、臨床研究を展開中です。
病期II、IIIの大腸癌では、術後再発予防目的のアジュバント化学療法の適応に未解決の問題も多く、特に抗癌剤投与が必要な再発高危険群の同定が必要です。すなわち、病期IIとIIIにおける再発高危険群の絞り込み、個別化が必要と言えます。そこで、我々の研究室では、Bioinformaticsの手法により、Public databaseから、絞り込みに有用なバイオマーカー候補を検索し、さらに、分子生物学手法によりその候補分子の機能解析を行い、さらに、実際の手術摘出標本を用いて、個別化の実証性を検討するPipelineが完成しております。このPipelineにより、有力なバイマ―カーが数種類同定されており、実用化を目指しております(特許出願済み)。
上記に加え、「食道癌の術前化学療法中、あるいは手術時における血中遊離癌細胞(CTC)の臨床的意義」「腸内フローラと腫瘍浸潤リンパ球の相関」など、すべての研究テーマは、臨床の問題を基礎的手法で検討し、再び臨床に還元するTRを実践しております。豊富な海外ネットワークを利用し、国際共同研究や海外留学(2名)を積極的に行っており、世界を視野にいれた臨床研究を目指しております。
外科医にとって、高度な手術を提供することがすべてに優先されることであり、その修練に全精力を注ぐことに論を待たない。と同時に、外科治療は、論理的に物事を考え、実践するアカデミズムに基づくことが必要であり、我々はAcademic Surgeonになるべく修練しております。
2019年4月からアメリカメリーランド州、National Institutes of Health(NIH)にある、National Cancer Institute(NCI)所属Laboratory of Human Carcinogenesis(LHC)部門に海外留学に来ています。2021年3月末、日本への本帰国を間近に控え、研究内容と、COVID-19パンデミックなどで様変わりしたアメリカでの生活について報告いたします。研究の内容は、肺がんを中心に、肝がん、頭頚部がん、胸膜悪性中皮腫患者などの生体試料(尿検体、血液検体)を質量分析器で解析し、その代謝産物の測定および解析をすることです。
これらの代謝産物が、各種がんの早期発見、予後予測バイオマーカーとして応用できることを目的としています。私は、肺がん患者試料の測定解析を担当しています。ひとつのプロジェクトは、喫煙歴の有無に着目した肺がん発生率を、代謝産物の値を用いて検討することです。その他には、肺がんStage I & IIのコホートにおいて、代謝産物のHigh群とLow群で癌特異的生存率に差があることを検討することです。
これらの検討は大詰めを迎えており、現在、論文にまとめているところです。福島に戻ってからも、この研究内容を消化管癌にも適応して行く予定です。
2020年は、COVID-19ですべてが変わりました。2月末までは、アメリカ国内では対岸の火事といった様子でしたが、3月になると状況が激変しました。1年に1回行われるLHC主宰work shopが直前に中止になり、3月15日にラボに行くと、上司からすぐさま自宅に帰るように言われ、指示があるまでリモートワークだと言われました。その日からNIHはロックダウンになり、ラボに行けるようになったのは3か月後の6月22日でした。その後も、暫くは短時間のみの滞在、大きな実験はしないように通達され、本格的に実験を再開したのは8月になってからでした。リモートワーク中のミーティングはすべてZoomで行い、年が明けた2021年でも継続しています。
私生活の面でも大きく変わりました。いわゆるロックダウン期間中の3月から6月は、週一回の生活必需品の買い出しと、気晴らしのための公園に遊びに行くことしかできませんでした。子供たちは3月以降一度も小学校には通っておらず、完全オンラインで授業を受けています。また、今年はBlack Lives Mattersでの抗議活動、大統領選をめぐる抗議活動もあり、緊張感を強いられる場面が続きました。アメリカではCOVID-19新規陽性者数が20万件/日報告されるような状況です(2021年1月現在)。幸いにも、近しい日本人の知り合いやラボメンバーで陽性および重症者はいませんが、いつ自分たちもと思うと不安です。ワクチン接種が開始されていますが、アメリカ全土に普及するにはまだまだ時間がかかるようです。COVID-19パンデミック前後の2年間をアメリカで過ごし、その違いを実感することはできましたが、当初思い描いていたようなアメリカ留学生活ではなくなってしまいました。気分的に落ち込むこともあり、リモートワークでは仕事が手につかないことも多くありました。しかし、家族やラボの同僚、日本人の友人たちと支えあいながらこの難局を乗り切ることができました。
この度、留学の機会を与えて下さった河野教授をはじめ、歴代留学経験者の諸先輩方、および医局の先生方にはこの場を借りて感謝申し上げます。今後留学希望の後輩たちにとっては、不安を与える内容になってしまったかもしれません。本当に強い志ををもって留学に臨むことをお勧めします。私が留学期間中に得た経験を、医局全体の大いなる発展に活かしていきたいと思います。
私は現在、Laboratory of human carcinogenesis(LHC), National Cancer Institute, National Institutes of Healthに研究留学をさせていただいております。LHCは竹之下理事長から脈々と続く伝統の留学先であり、数々の諸先輩方が世界最先端の医学研究を通して研鑽されきました。栄誉なことに留学の機会を賜り、挑戦させていただいていることを心から感謝いたしております。竹之下先生、河野先生はじめ多くの先輩、同期、後輩の先生方、スタッフの方々に深く御礼を申し上げます。どうもありがとうございます。この度は誠に稚拙ではございますが、留学体験記と題してご報告せていただきます。
私が所属するLHCはDr. Curtを筆頭に5人のPI (Principal Investigator)がおり、肺がん、肝臓がん、膵がん、乳がん、前立腺がんなど様々な癌腫を対象に基礎研究から臨床研究まで行っております。私は肺がんの早期発見を目的としたバイオマーカーの研究に携わらせていただいております。質量分析器を用いて臨床検体から目的のメタボライトを測定し関連解析を行ったり、細胞株を用いて目的メタボライトの代謝、機能解析をチームで進めています。臨床から離れ医学研究の分野に飛び込んでまだ日も浅く、どうすればチームに貢献できるか苦悩する場面もありますが、幸いにも本研究目的は臨床医として身近に感じることができ、楽しみながら取り組むことができています。ラボ構成員は約40人おり、出身国はアメリカ、日本、オーストラリア、アルゼンチン、インド、中国、フランスなどとても多彩です。それぞれ様々な状況で悩み、喜び、たまに愚痴を言ったみたりと、日々の研究生活を楽しんでいます。また月に1回の研究経過をプレゼンする場が設けられており、毎度胃が痛くなりながら準備をしています。当然英語でプレゼンをやりますが、乾燥した口が余計に舌を回らせなくしております。当時月に3回プレゼンしていた岡山先生の胆力には感服いたします。研究室での生活を振り返ると、苦労は尽きません。しかし、それ以上に課題に挑戦していける環境に身を置けていることに感謝しております。毎日地道な繰り返しですが、それがいつか病で苦しむ人々のためにつながると信じて、精進してまいります。
現在、妻と二人でBethesdaのアパート(NIHから車で5分)で暮らしています。現在は、生活もだいぶ慣れ、お気に入りのスーパーやカフェ、ジャンクフード店、レストランなどを見つけ楽しませていただいております。休みの日には国立公園やスミソニアン博物館、リンカーン像があるワシントンメモリアルなど様々なところに行かせて頂いております。
生活のセットアップでは、幸いにも自動車の購入やアパート契約は順調に進めることができましたが、少々苦労をいたしました。恥ずかしながら、少し紹介させていただきます。インターネットでIKEAの家具を購入したのですが、予定日に配送されず、電話で問い合わせたところ、あなたのクレジットカードは承認されていなく、購入がキャンセルされている状態と言われました。詳しく調べてみると、円建てのクレジットカードは店頭では使用できるものの、web上では使えないということでした。改めて、IKEAに出向き、購入予定のリストを店員に見せ購入と配送希望の旨を伝えました。しかし、直後によくわからない独特な発音の英語でなにかを聞かれましたが、さっぱりわからず、彼の意図を理解するのに10分もの時間を費やしました。今から振り返ってみても、このときが一番コミュニケーションで難解な場面だと思います。しかし、ここはアメリカであります。最後に、「ありがとう!」といってガシッと握手をしてニコッとしてハグをすれば、イライラしていた店員もにこやかになり、「また来いよ」と笑顔で送ってくれます。他にも、社会保障番号を申請・取得するにも時間を要しました。一度目にお願いした担当者の手続きがうまく完了していなかったようで、結局、別の役所で再度申請をしてようやく取得できました。あのニコニコしながら「The process is completed.」といった言葉は一体なんだったのでしょうか。他にも、IKEAの家具を配送してきたトラックの運転手が他の住人と駐車スペースで喧嘩を始めたので止めに入ったり、ドミノピザでは「お勧めはなにか」と聞いたら、「俺が食べるわけじゃないから答えない」と言われてみたりと、日々の生活を楽しんでおります。
アメリカでの日常生活を通して感じるアメリカの自由と自己責任に繋がる寛大さと厳しさなど様々なものを身をもって学べています。有難い事に職場以外での出会いもあり、様々な人と知り合うことができました。研究所以外でできた友人達もとても誠実で優しい人たちが多いと感じます。よく最初の会話でこんなことを話します。日本では外科医をやっていたと話すと、「体調悪いときはYasuに連絡するから診てくれ」とお願いされます。もっともらしく「OK. But all I can do is just to say “please go to a good hospital” 」というと爆笑をいただけます。そうです、日本では失笑ですが、アメリカではちがうことを教えていただきました。
日本国外での生活では日本の素晴らしさに多く気づくができたのも、この留学のひとつの成果だと思います。日本人が持つ堅実さや正確性、清潔感などは日本人としてとても誇らしく思います。一方で、アメリカのダイナミックな考え方、全体を統括するシステム構築(教育や研究)には学ぶところが多いと感じます。
日々の生活の中で楽しいこともありますが、それと以上に悩み、苦労することがあります。しかし、苦労があるから力をつけることができ、日々が充実していき、苦労する人に手を差し伸べることができると思います。何よりも代えがたいこの素晴らしい機会をいただけたことに心から感謝しております。誠にありがとうございます。医師としても人間としても大きく成長して皆様に還元できますよう、精進してまいります。
2017年12月より海外留学の機会をいただき、カロリンスカ研究所(KI; Karolinska Institutet, Stockholm Sweden)に博士研究員(Postdoctoral Researcher)として在籍しています。留学して間もないのですが、スウェーデン、カロリンスカ研究所、現在の状況そして留学までの経緯についてご報告させて頂きます。
皆様にあまり馴染みがないかと思われますので、北欧スウェーデンについて少し紹介いたします。スウェーデンの国土は45万㎡と日本とほぼ同じですが、人口は約1000万人と多くありません。首都Stockholmは北緯59度(日本最北端が45度)に位置し、アメリカのアラスカ州やカナダと同じ緯度になります。-20℃ぐらいになることがあるそうなのですが、近年は温暖化の影響を受けて平均気温は-5℃前後なのであまり福島の真冬と変わりません。吾妻おろしのような強風がないので体感温度は比較的暖かい印象です。しかしながら、一番の問題は日照時間が1か月で合計30時間程度しかなく、いつまでたってもずっと暗いことです。そのため、灯りに対する価値観が高く、各家庭でろうそくや間接照明を多く飾る習慣があります。中世の街並みが残る国として有名ですが、それらが相まって非常に美しい景観をみることができます。
カロリンスカ研究所は、福島県立医大と同じく単科の医科大学です。ノーベル医学賞、生理学賞の選考委員が置かれていて、受賞記念講演も行われるようですが、私は聴くことができませんでした。研究組織は20-30の部門があり、私が在籍しているのはDepartment of Oncology-Pathologyです。当研究室を主催するRolf Kiessling教授は、NK細胞の発見者の一人で、癌免疫の分野を牽引しています。研究所は、敷地内のCancer Center Karolinskaというビルの1フロアを他グループと共有しています。教授をはじめ数名の研究指導者が在籍していますが、スタッフの多くはPhD student、Postdoctoral researcherそしてMaster studentです。当然地元のスウェーデン人が多いのですが、私の周りだけでもアメリカ、スペイン、ドイツ、イギリス、インド、マレーシア、中国と多くの国から人が集まっています。ほとんど英語でのコミュニケーションですが、簡単な挨拶などはスウェーデン語を用いています。研究については、詳細は割愛しますが酸化ストレスによる免疫抑制に抵抗する細胞の確立とメラノーマの患者血液サンプルを用いたプロジェクトが動き出したところです。
さて、この度カロリンスカ研究所へどうして留学することが叶ったのかというと、河野教授より多大なるサポートをいただけたからになります。ご存知の方も多いと思いますが、河野教授はカロリンスカ研究所へ留学の御経験があり、医学博士も取得されています。Rolf教授とはその時以来、深い親交があると伺っています。河野教授のおかげ?でしょうか、Rolf教授をはじめ研究所のスタッフは皆日本に好感を持っている印象を受けます。こちらでもよく福島(震災のことはみんな知っています)はどういった状況か、河野教授は元気かなど日本のことをよく聞かれます。日本の話がでてくると、私も少し肩の力が抜けて話しやすくなります。ところで、StockholmはちょっとしたSushiブームで、いたるところにSushi Barがあります。ほとんどはEuropean styleで派手な巻物ですが、ちゃんとした握り寿司も食べることができます。値段は高めですが、個人的にはおいしいと思っています。
今回の留学の準備で多くのことに苦労しましたが、Stockholm特有でしょうか、最も苦労したことについて少し触れたいと思います。あまり知られていないと思いますがStockholmは住宅事情が非常に厳しく、数が少なく、家賃も高いということです。そのため学生達が構内でストライキを起こすぐらいだそうです。研究者用の寮へ申し込んだのですが、26か月待ちと返答があり愕然としました。しかたなくインターネットで地元の不動産会社を検索し、空いている物件を探しました。やはり空いているのは市街地から離れた場所か、家賃の高い物件しかなく、どうにかして2LDKの築100年のアパートを借りることができ、ようやく出発の準備が整いました。
そしてようやくSwedenに着いたと思いましたが、すぐにトラブルが待ち構えていて、なかなか思ったようにことが運んでくれない日々を送っています。日常生活でのハプニングや研究の進捗など、いずれ機会がありましたらお伝えしたいと思います。
最後に、河野教授をはじめ医会の皆さま、スタッフ、そして福島県内の各施設の関係者の方には、この度の留学にあたり多大なる協力をいただき本当に感謝しております。引き続き、全力で臨む所存です。あたたかく見守っていただければ幸いです。