福島県立医科大学
消化管外科学 主任教授
河野 浩二
2016年11月1日、福島県立医科大学の外科学講座は統合再編され、伝統ある福島県立医科大学の旧第一外科、旧第二外科の両者の流れをくんだ、全く新しい消化管外科学講座が開講されました。消化管疾患の外科診療、教育、研究の拠点が一本化され、患者数の増加、診療の質の向上、臨床研究の活発化を目指して活動しております。
私達は消化管外科学講座の5年間(2017~2021)の目標を以下に設定し、実践してまいりました。その進捗状況をまとめますと、
①「地域の食道癌High volume centerとして機能」
ここ数年、食道癌切除術が年40-50例で、ロボット支援下食道切除を順調に導入し、地域のHigh volume center としての機能を発揮しているかと思います。2022年には、新規NAC regimenの導入、Adjuvantでのオプジーボ導入など、食道癌の周術期治療は大きな変革の時期を迎えました。また、2020年から参加しているJCOG食道班での活動もさらに活発となり、食道癌診療ガイドライン作成委員、レビュー委員に教室から4名参加し、地域の食道癌High volume centerから、さらに全国規模での活躍が継続しております。
②「鏡視下、ロボット支援下手術を中心とした低侵襲外科医療の提供と、内視鏡外科技術認定医の輩出」
食道癌、胃癌、直腸癌でロボット支援下手術を積極的に導入し、ほぼ標準術式として確立しつつあります。2021年にはロボット手術通算100例に到達し、ロボット手術認定施設として、プロクター2名、術者6名の人材を配置しております。また、現在、教室関連で内視鏡外科技術認定医8名の在籍があり、現在申請中の6名と合わせ、教室全体としての技術認定医取得サポートプログラムが機能していると思います。今後は、より若手外科医への症例の集積が必要と思われます。
③「Translational Researchの充実、特に、癌免疫療法の臨床開発と、ゲノム解析によるバイオマーカー探索研究の2本柱」
外科学教室の武器である、集学的治療としての臨床試験および摘出標本を用いた臨床研究を、Molecular biology + Tumor Immunology + Bioinformaticsの手法を用いて実践しております。当教室発の胃癌に対する放射線照射+Nivolumabの医師主導臨床試験「サーキット試験」が終了し、Median survival timeの顕著な改善、長期奏功例の達成、Immunogenic cell deathの証明など、大きな成果が得られました。また、ゲノム解析によるバイオマーカー関連の活動も大変活発で、国際有力誌への発表がルーチン化し、特許出願も2件達成しております。Translational Researchの充実により、英文論文を毎年40-50編の発表、毎年複数の学会賞受賞、特許出願2件、競争的研究費取得が毎年30-40件、学位取得が20名/5年間を達成しております。 当科研究室は、上記2本柱の研究活動が良好に機能し、教室の特筆すべき武器として確立してきました。
④「国際性」
5年間で、3か所の海外留学先(米国NIH、スウェーデンカロリンスカ医科大学、米国City of Hope)に、計7名が留学し、国際性を持った外科医として成長しております。今後は、留学先からの継続研究テーマが教室に還元されることを期待します。
上記の教室活動をもとに、次の5年間(2022~2026年)における教室の目標を新たに掲げました。この達成に向けて教室員一同、全力を傾けていきます。
♦ ロボット手術の成熟化
♦ 次世代スタッフの適正化(教室 and 関連施設)
♦Translational Researchのさらなる発展
♦食道癌High Volume Centerのさらなる発展
福島の名は、震災を機会に世界的に知られることとなりました。
今後は、この福島の名を、消化管外科学の分野で国内外に情報発信できるように、絶えず世界を視野に入れた活動を行います。また、福島県は広く、また震災の影響による外科医の偏在化の問題があり、優秀な外科医の輩出は重要な使命であると考えております。一人でも多くの消化器外科専門医の輩出に努め、県内中核医療機関と協力して、人材の派遣、有効なネットワーク形成に努力いたします。
【教室の歴史】
2016年11月1日、福島県立医科大学において、70年の歴史を有する外科学講座(臓器再生外科学講座(旧第一外科)、器官制御外科学講座(旧第二外科))は統合され、臓器別に再編されました。すなわち、食道から肛門までの消化管疾患の外科治療を専門とする消化管外科学講座が新たに組織されました。福島県立医科大学の旧第一外科、旧第二外科の両者の流れをくんだ新しい外科学講座が開講され、その初代主任教授として、河野浩二が任命されました。
【主任教授履歴】
- 1987年
- 山梨医科大学医学部卒業
- 1994年
- スウェーデンカロリンスカ医科大学客員研究員(カロリンスカ医学博士取得)
- 1996年
- 山梨医科大学第一外科助手
- 2001年
- 山梨医科大学第一外科講師
- 2003年
- 山梨大学医学部第一外科准教授
- 2011年
- シンガポール大学外科教授、兼 付属癌研究所Principal Investigator
- 2014年
- 福島県立医科大学教授 器官制御外科学 兼 先端がん免疫治療学講座
- 2016年
- 福島県立医科大学 消化管外科学講座 主任教授
- 2022年
- 福島県立医科大学 理事、副学長
【学会活動等】
- 日本外科学会
- 代議員(教育委員、臨床研究推進委員、利益相反委員、専門医委員)
- 日本癌治療学会
- 理事(がん診療ガイドライン委員長、国際委員、プログラム委員)
- 日本癌学会
- 評議員
- 日本胃癌学会
- 代議員、Editorial board of “Gastric Cancer”
- 日本食道学会
- 理事(プログラム委員長、国際委員)、Editorial board of “Esophagus”
- 日本臨床外科学会
- 福島県支部長、評議員
- 日本消化器病学会
- 財団評議員、学会評議員(医学用語委員)
- 日本バイオセラピィ学会
- 理事長 評議員
- 日本癌病態治療研究会
- 理事 世話人
- 癌免疫外科研究会
- 世話人 他
(2022年3月31日、福島県立医科大学 消化管外科学 主任教授 河野浩二)